弓削の民話「聖松(ひじりまつ)」
聖松(ひじりまつ)は、弓削島(ゆげしま)・土生地区の小高い山の中ふく、定光寺というお寺のそばにあった松です。残念ながら、今はかれてしまってありませんが、大人が二人で手をのばしてもとどかないほどの幹をしていた立ぱな松だったそうです。現在は、聖松をしのぶ「聖松公園」になっています。
聖松の伝説をマンガで表現しました。話を分かりやすく伝えるために、絵やセリフは作者が想像したものです。元々の伝説は、このページの最後でしょうかいしていますので、読んでみてください。
<もっとくわしく知りたい人へ>
『弓削町誌』聖松より一部抜粋(ばっすい)
「ひじり松」から、およそ50メートルほどはなれたところに定光寺というお寺があります。そのむかし、この定光寺は、海岸近い平地にありました。
ある時、村の人たちとの相談で、このお寺を、今の定光寺がある所に動かそうということになりました。ところが、動かそうという所には、それは大きな松の木があったのです。この松の木があるかぎり動かすことができません。松の木をどうしたらいいものかとこまってしまい、何日も相談が続きましたが、さんざんもめぬいたあげく、とうとう切りたおそうということになりました。
今日いよいよ切るという日のことです。村のしゅうは、おの、のこぎりなどを手に手に、松の木のある場所に集まってきました。すると、どうでしょう。確かにそこにあったはずの松の木がありません。あたりに目をやると、なんと、50メートルほどはなれた所に、いつもとかわらないすがたでちゃんとすわっているではありませんか。村人たちは、口々に、「ふしぎな松じゃ」「今日切られることを知って、あそこまで動いたんじゃ」と、びっくりぎょうてんしました。
ふしぎな松のうわさは、村のすみずみまで伝わっていきました。そして、だれいうとなく「いざり松(※1)」とよばれるようになりましたが、それからも、ふしぎなことは、つぎからつぎと起こりました。
この松は、あまりにも大きく枝をひろげ、根をはるので、村の百姓しゅうが、日かげになる、根が畑に入ってきて作物ができないとか、苦情をいい、さわぎたてるので、村人で相談し、枝をうちはらい、根を切りとってしまいました。ところが、枝や根を切りとった者たちは、足がいたくなったり、頭がいたくなったり、ふしぎなたたりのようなものを感じはじめたのでした。
それからというもの、この松の木に傷をつけたりする者はいなくなりました。それで、大きく枝をはり、根をはり続けてきました。
この松は、その根元に、ほこらがあり、そのほこらを「聖さん」といってあがめていたことから、「聖松」と名をあらため、ふしぎな松として、町の人たちに大切に守られていましたが、1977年(昭和52年)、松くい虫のためにかれ、人々におしまれつつ切りたおされました。
※1 いざる:地べたをはう
【参考文献】
弓削町役場『弓削町誌』1986年(昭和61年)
弓削町『弓削民俗誌』1998年(平成10年)
越智郡公民館連絡協議会編『越智郡むかしむかし』1976年(昭和51年)
【調査・文章・イラスト】
2017年度弓削小学校6年生