上弓削の秋祭り

■上弓削地区の秋祭りとは
 弓削島・上弓削地区の秋祭りは、毎年10月に行われる伝統行事です。みこし、だんじり、ししまい、おちごさん(稚児行列)、みこさんのおどりが行われます。祭りは、豊作をいのるための行事です。みこしに神様をのせて、地域をまわります。神様がまわるときはだんじりや道具持ちもいっしょに、神様が喜ぶよう、にぎやかにまわっていきます。
(写真:稚児行列)
(写真:ししまい)

■だんじりのけんか
 平成26(2014)年までは、上弓削地区と久司浦(くじうら)地区とで、だんじりの「けんか」が行われていました。けんかは、上弓削地区の氏神(うじがみ)である高濱八幡(たかはまはちまん)神社の境内で行われていました。けんかの時は、高濱八幡神社に、地区ごとのだんじりが順番に入っていきました。その順番は年ごとに変わったそうです。けんかが始まると、おたがいのだんじりの先頭のだんじり棒を組んでおし合います。だんじりがこわれてしまうこともありました。けんかがなくなった大きな理由は、だんじりをかつぐ人が少なくなったからだそうです。

(写真:上弓削と久司浦のだんじりのけんか)

■だんじりの「乗り子」たち
 だんじりの上で太こをたたく子どもたちを「乗り子」と呼びます。上弓削では、小学1年生から中学3年生までの子どもたちが乗り子になります。

 中学1年生から3年生までを「大組(おおぐみ)」とよびます。着物を着て大人たちがだんじりをかついでいる時に太こをたたきます。大組は、祭りの前日、福祉(ふくし)センターにとまります。朝早く起きて5時ぐらいから太こをたたいています。昔は2時か3時くらいから太こをたたいていたそうです。

 小学1年生から6年生までを「小組(こぐみ)」とよびます。小学校の制服のポロシャツと長ズボン、セーターを着て、大人たちがだんじりをおしている時に太こをたたきます。

 昔は、女の子は祭りに参加せず男の子だけが祭りに参加していましたが、今は子どもの数が少なくなったため、男の子も女の子も太こをたたきます。

 祭りに参加している弓削小学校の5人に、太こをたたく時にどんなことを思っているのか聞いてみました。みんなが気持ちよくもり上がるように、歌を歌ったり、太こをたたいたりしているそうです。

(写真:大組)
(写真:小組)

■祭りの練習
 祭りの前になると、乗り子になる子供たちは歌や太こをたたく練習をします。10年ほど前までは、親が歌詞を全部覚えていたので、それを家で口で伝えて自分の子どもに教えていたそうですが、祭りの歌を知らない人が増えたため、今はみんなが集まって、歌しを印さつした紙を使い、地区の大人たちに教えてもらっています。

 祭りの歌を教えてくださっている田房良和さん、木原良太さんにどういう気持ちで子ども達に教えているか聞いてみました。すると、「子どもたちが祭りを好きになってくれるとうれしい」、「自分たちも大人たちから教わってきた伝統だから守っていきたい」、「子どものために残してあげたいという気持ちで教えている」と教えてくださいました。私たちは、その思いに応えたいと思いました。

■祭りの歌
 上弓削地区の祭りの歌がいつ出来たのかは、今はもうはっきりとはわからないそうですが、上弓削地区の90代の男性にたずねたところ、おそらく150年以上前の江戸時代に作られたのはないか、と言うことだそうです。

 上弓削のだんじりの歌やことばには次のようなものがあります。

●太こをたたき始めるときのことば
「やーしょい やーしょい やーしょい 
 よやしょ よやしょ えーいえーいえい」

「ちょーちょ おーらよいさ よいさーよいさ」

●だんじりが動き出すときにかけることば
「ちょーさやー そこじゃ よーいやーさー 
 まーかせ まかせ えーいえーいえい」

●だんじりを地区内や高濱八幡神社の境内でまわす時の歌
「かみゆげの わかいさんにゃ 
 おおさか くだりの きよがん のませて
 どんどと さおがせ さおがせ」

「わかいときゃ にどない さんどは なおない」

「おめーたちゃ しらねぇが あおいかきゃ しぶいぞ 
 しぶいかきゃ あおいぞ
 あおても きねりは あまいぞ あまいぞ」

「でそうで でんのは いしわら たけのこ 
 いしに おされて よっこいでた よっこいでた」

「そこらの むすめさんにゃ けがない けがなきゃ はやして
 どんどと さおがせ さおがせ」

「そこらの むすめさんにゃ
 けんけらけが はえだした はえだした」

「よさぶろ ちょんまげ ちょんまげ よさぶろ」

「やっけんぼうぼにゃ さねがない さねがなけらにゃ やっけんじゃ
 ぼーぼーして そのこが しんだら
 またして またとれ またとれ」

●だんじりが高濱八幡神社に入るときの歌
「とーびとーびまよれ てんへあがって ひゅーろろん ×3回
 よやしょ よやしょ えーいえーいえい」

●だんじりのけんかの時に、他の地区のだんじりが高濱八幡神社に入ってきた時の歌
「かみゆげの わかいさんにゃ 
 おおさか くだりの きよがん のませて 
 どんどと さおがせ さおがせ」

「くじらの わかいさんにゃ どたまに でんげりぐそ 
 ねじこめ ねじこめ」

「さわづの わかいさんにゃ いちだい まめなよに
 おみやへ いのれよ いのれよ」

●だんじりをかついでいる人に、がんばれとはげます歌
「わかいさんよ がんばれ がんばれ わかいさんよ
 おとすな おとすな」

●かついでいるだんじりを差し上げるときのことば
「おらさせ おらさせ させさせ おらさせ」

●だんじりをバックする時のことば
「ひとあし もどせ ついでに もどせ
 よやしょ よやしょ えーいえーいえい」

 上弓削の祭りは地域の大人達や子どもが協力し心をひとつにして行う祭りです。ぜひ、訪れたり参加したりして、上弓削地区の祭りを体験してください。
(写真:だんじりを差し上げる様子 提供:上島町)

【取材協力】
田房 良和(たぶさ・よしかず)さん(1967年生まれ、弓削島出身)
木原 良太(きはら・りょうた)さん(1986年生まれ、弓削島出身)

【参考文献】
弓削町役場『弓削町誌』1986年(昭和61年)
弓削町『弓削民俗誌』1998年(平成10年)

【調査・文章】
2020年度弓削小学校6年生

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